SAPが語るインメモリ--HANAとOracleの違いとは

インメモリ技術による「超」高速データ処理を特徴とするデータベースソフトウェア「SAP HANA」だが、SAPは、特徴はそれだけにとどまらないとする。それは設計思想そのものにも起因し、他社にはない利点を生み出しているという。
HANAは、2010年に市場投入。第1号ユーザーとして野村総合研究所が導入して以来、これまでに世界で4000社以上が導入、利用し、そのうちの3分の1以上が、HANA上の統合基幹業務システム(ERP)である「SAP Business Suite powered by SAP HANA」を利用しているという。
HANAの最大の特徴は、インメモリ技術による高速処理である。すべてのデータをメモリ上で処理するインメモリコンピューティング技術により、ハードディスクのデータベースと比べて、数千倍から数十万倍のパフォーマンスを発揮できるとする。
だが、インメモリによる高速性は、他社と同じ道筋を歩んでいるに過ぎず、当然の道程であると、SAP Asia Pacific Japanのデータベースおよびアナリティクス担当シニアバイスプレジデント、Paul Marriott氏は語る。
「唯一、インメモリに特化したHANAは、Oracle Database 12cのインメモリオプションと比べても3倍速い。だが、それだけで価値は低い。HANAの強みは高速性だけでなく、むしろほかの部分にある」
呼応するように、独SAP プラットフォームソリューションズグループのグローバルバイスプレジデントを務めるPaul Young氏は、HANAの特徴としていくつかの要素をあげ、それについて説明する。

同一DBでトランザクションとアナリティクスの両方を

「1つめは、同一のデータベースで、トランザクションとアナリティクスの両方を実施できるという点。これは他社との大きな違いだ。Oracle Database 12cのインメモリオプションは、コピーを作ってクエリの高速化を実現するが、同じデータが重複して存在するため、複雑性が増すという課題がある。また、Exalyticsを利用したり、Hyperionを利用したりするたびに、またコピーを作らなくてはならない。1つのデータセットを利用するのに比べるのと、スマートとは言えない」(Young氏)
Marriott氏は「トランザクションシステムとアナリティクスシステムが分断していたことによって、重複データやシステムの複雑さが発生している。これを解消しているのがHANAの強みだ」と続ける。 HANAの製品構造面でのシンプルさは、他社にはない特徴というわけだ。
2つめは、さまざまなデータを活用し、リアルタイムに分析できるという点。「HANAはデータベースが得意とする構造化データのほか、地理空間データ、ソーシャルデータなどの非構造化データのすべてが1台に入る。それをリアルタイムで処理することができる。時間や場所、利用者が持つ制約をなくし、リアルタイムビジネスが実現できるのがもう1つの特徴だ」と同氏。
もちろん、Oracleとしても「既存のデータベースに一切手を入れずにインメモリ処理を実行できる」など、さまざまな言い分があると考えられるが、SAPとしては、インメモリに特化したアーキテクチャを作り上げていることを強調する格好となった。

Burberryは顧客の行動をリアルタイム予測

事例として挙げるのがBurberryだ。同社では、顧客が店に入ってきた際に、会員顧客が持つモバイルデバイスを検出。これまでにどんな製品を購入しているのか、どんなサービスを受けているのかといった履歴を検索し、高度な分析を通じて、次にどんな製品を購入しそうなのか、あるいはどんなものに興味を持ちそうなのかといったことをリアルタイムで予測し、最適な接客ができるようにするという。
「古いデータベースシステムでは、過去の購入履歴は閲覧できるが、在庫システムと連動させて最適な製品を勧めたり、個別の顧客に対して、パーソナライズ化した体験を提供したりといったことまではできない。データを収集して、格納するだけでなく、リアルタイムで処理し、分析できるのがHANAの特徴であり、リアルタイムの顧客体験は、他社のプラットフォームでは実現できない。だからこそ、BurberryはHANAを使っている」(Young氏)
また、ソウル国立大学病院では、10年間にわたる臨床データを活用。テキストベースの情報などの非構造化された患者のデータや、実験データなどの構造化データを組み合わせ、リアルタイムで分析できるという。その結果、以前抗生物質の投与は全体の6%の患者に実施されていたが、1.2%にまで引き下げられたという。
「投薬量が減ることで経費を下げられ、薬剤耐性の課題についても解決できる。従来のデータベースシステムではできなかったこと」だとする。
3つめには、それらの仕組みを活用することで、将来を予測する先見的な分析が可能になる点だ。
「HANAは、単なるデータベースではなく、プラットフォームと呼べるもの。だからこそ、将来を予見し、未来をシミュレーションできる。いままで解決できなかったものまで解決できるようになる」と、ヤング グローバルバイスプレジデントは語る。
オランダでの具体例を挙げる。ガスのパイプラインのすべて情報をデータベースにまとめているが、これに地理情報を加え、学校や図書館などの公共施設や、スタジムや展示会場などの人が集まりそうな場所などを認識。パイプの老朽化によるトラブルや、災害が発生した場合に、深刻な被害が出そうな場所を事前に予測することができ、対策を講じることが可能だという。しかも、それをわずか3.8秒で予測したという。

昨今、スポーツ分野にも注目が集まっている。
Marriott氏は「スポーツ分野やエンターテメイント分野において、HANAを活用したアナリティクスの実績は非常に分かりやすいもの。それはビジネスでも活用できるものである」とする。
F1ではマクラーレンがマシンの走行状態をHANAでリアルタイム分析し、最適なレース運びに活用しているほか、ドイツでは、サッカーブンデスリーガでバイエルン・ミュンヘンなどのチームが、選手の育成や戦術理解にHANAを活用している。今後もスポーツ分野での活用を広げていく考えだという。
Young氏は「データベースは最終的に、どんな価値が得られるのかが重要」と前置きする。「HANAが目指したのは、フォード創業者であるHenry Fordが目指したものと同じだ」とする。

「当時の人々にどんな移動手段が欲しいかと聞いたら、多くの人が、速く走る馬が欲しいと答えた。いまのデータベースは、それと同じで、速い馬を育成することに、競合他社は力を注いでいる。しかし、SAPが、HANAで取り組んでいるのは、クルマを作ることだ。考え方の根本を変え、スマートな形で解決できるものを提案している。世の中は、すべての人が馬を降りて、クルマに乗る決断をした。データベースは40年も経っている。そこから脱却して、インメモリ処理に特化し、トランザクションとアナリティクスをひとつのデータから分析し、将来を予見できる新たなデータベースに移行しなくてはならない」と語った。