SAPとは何か―IT初心者向けにわかりやすく【3分ぐらいで読めます】

 SAPって何?

SAPとERPって何が違うの?

SAPはどんなシステムで何ができるの?

上記のような素朴な疑問をお持ちの方向けに「SAPとは何か」を「社会人歴 = SAPエンジニア」が解説していきます。(専門用語はできるだけ使いません!

入社・転職したばかりで、急にSAPを知る必要が出てきた人や、初めてSAPを触る人でも「3分で理解」できるように要点を絞って解説します。(ページ後半ではおすすめの参考書もご紹介します。)

このページで学べる内容
  • SAPとは?
    • ERP(Enterprise Resources Planning)とは?
    • ERPパッケージとは?
  • SAPは何ができるの?どんなシステムなの?
    • モジュール(FI / CO / SD / MM 等)について
  • SAPを導入するには何が必要?

「SAP」の超・入門編の解説です。このページを読めば、SAPって〇〇だよ!と答えられるようになるはずです。是非最後までご覧ください。

  1. SAPとは何か?
  2. 前提:「ERP」とは何か?
    1. BeforeERP:個別最適化の時代
    2. 部門単独システムの限界:全体最適化へ
    3. ERP = 企業資源計画
  3. ERPパッケージとは?
  4. SAPを更にわかりやすく:モジュールとは?
    1. FI(Financial Accounting):財務会計
    2. CO(Controling):管理会計
    3. SD(Sales and Distribution):販売管理
    4. MM( Material Management ): 在庫購買管理
  5. SAPを導入するには?
    1. パラメータ設定(コンフィグレーション / カスタマイズ)
    2. ABAP開発(アドオン開発)
  6. FAQ:SAPとERPの違い
  7. SAPをもっと詳しく知りたい方は

SAPとは何か?

「SAP」を一言で説明すると「SAP社」が製造する「ERP」製品

「SAP」を一言で説明すると「SAP社」が製造する「ERP」製品のことです。

こう説明されてしまうと分かりづらいんですよね。これが、SAPを難しく感じてしまう最初の壁です。

この最初の壁を超えるため、まずはSAPを正しく理解するために前提となる知識から解説していきます。

まずは最初の前提知識―。「ERP」という用語の意味から解説します。

前提:「ERP」とは何か?

ERP(英: Enterprise Resource Planning)を簡単な言葉で言いかえると「全部門共通システム」となります。

では「全部門共通システム」とは何か?企業におけるシステム利用の歴史を辿りながら解説していきます。

ERPをちゃんと正しい言葉で説明すると「企業資源計画 」という意味不明な言葉になるので、ここではあえて「全部門共通システム」と説明します。企業資源計画の意味についてはページ後半で解説します。

BeforeERP:個別最適化の時代

ERPという概念が生まれる前のシステム黎明期には、今とは違い会社全体で1つのシステム開発を行うというのは非常に珍しく、各業務部門が独自にシステム開発を行うのが主流でした。

経理部門であれば経理部門単独の経理システムを持ち、人事部門であれば人事部門独自の人事給与システムを持ち、また調達部門は調達部門独自の調達管理システムを持つ―。

各部門単独で業務を最適化することに努めていたというのがシステム開発の歴史の始まりです。

下記の図で表す通り、システム開発の黎明期は部門単位でのシステム開発・運用が主流でした。

経理部門であれば経理部門単独の「経理システム」を持ち、人事部門であれば人事部門独自の「人事給与システム」を持ち、また調達部門は調達部門独自の「調達管理システム」を持つなど、各部門単独で業務を最適化することに努めていたというのがシステム開発の歴史です。
「個別最適化」されたシステム

システムの力を部門単位の業務最適化に利用することで、各部門の業務効率の向上を目指し一定の成果を上げました。

部門単独システムの限界:全体最適化へ

しかしながら、部門最適化したシステムでは、会社全体で見るとかなり非効率な側面が存在します。

その最たる例が、部門間の情報・データ共有です。

嘘のような本当の話ですが、調達システムで購入した物品の金額を「印刷して経理部門に手渡す―。」「USBメモリに入れて渡す―。」「メールで送付する―。」それらのデータを受け取った経理部門は「手入力で経理システムに打ち込みなおしたり」「独自の取り込みツールを作ったり」ということがありました。

部門単独で完結する業務の方が珍しいため、結果として効率化されない業務が多分に存在していました。言い方を変えれば、部門内では最適化された業務を遂行している一方で、部門をまたがって業務を行う必要がある場合は、完全に最適化しきれていなかったということです。

そんな欠点を補うために考え出されたのが「ERP」という概念です。

調達システムと経理システムを一緒にして、自動的に転記できるようにしよう!」「調達システムに在庫管理システムをくっつけで、いつでもを在庫量をみれるようにしよう!」というように、システムを統合することのメリットを強く意識して生み出されたのが「ERP」という概念なのです。

個別に機能していたシステムを、会社全体で1つのシステムに統合する考え方がERPの始まりです。

【イメージ図】ERPパッケージのシステム構成

ERP = 企業資源計画

ここまではERPを「全部門共通システム」と説明しましたが、より本質的に「企業全体の資源人・モノ・金・情報)を管理するシステム」と説明することができます。

企業内で発生するありとあらゆるデータを一元的に管理することによって、業務の最適化につなげていくという考え方こそが、ERPという言葉の本質です。

「ERP」というとすぐにシステムを想像してしまいがちですが、本来は「企業全体の資源を一元管理する考え方」を指します。

ERPパッケージとは?

ERPパッケージとは

企業全体のシステムを作るのは決して簡単ではありません。1からERPを作るのは非常に難しいことです。

部門ごとではなく全社一斉にシステム開発を開始する、というだけでも困難ですので、 システム開発の時間はかなり長期化する傾向にあります。

その困難に目を向けビジネスの商機を見出した企業が今でいう「ERPベンダー」です。

「ERPシステムをパッケージ化すればよいのではないか・・・?」ERPをパッケージとして(ERPを各企業に展開可能なソフトウェア・アプリケーションとして)製造しておけば、いろんな企業が買ってくれるのではないか?

会社にとっても、無駄に一から開発するのではなく、1つの製品としてサーバにインストールするだけでERPシステムの導入ができたほうがはるかに楽ですよね。

そうした流れの中で生み出されたERPのパッケージ製品が、SAP(by SAP社)であり、Oracle EBS(by Oracle社)なのです。

これで最初の解説の意味が分かるようになります。

SAPとは「SAP社」が製造する「ERP」製品のことです。

SAPを更にわかりやすく:モジュールとは?

SAPをさらに具体的にイメージできるように、モジュールという概念を解説します。

簡単に言えばモジュールとは機能の集まりです。

先ほど説明したように、ERPは「企業全体システム」ですが、分解していけば1つ1つの部門単位の機能に分けられます。

会計システム + 調達システム + 在庫管理システム + ・・・・ = ERP

この会計システムとか調達システムみたいな部分をSAP用語では「モジュール」と呼んでいます。

SAPを導入する際には、このモジュール単位で使うか使わないかを決めることができるので、ここからはSAPの代表的なモジュールについていくつか解説していきます。

SAPをインストールすると全てのモジュールが同時にインストールされます。よく「モジュールごとにインストールするのだ!」と誤解されがちですが誤りです。必ず全モジュールが不可分のものとしてインストールされるという点を覚えておきましょう。

ただし、もちろんインストールしただけではそのモジュールを利用することはできません。パラメータ設定(後述)が必要となります。

本ページでは、SAPにおける代表的なモジュールを簡単にご紹介しておきます。

FI(Financial Accounting):財務会計

先に説明した会計システムの部分です。

FIモジュールはSAPの花形です。

モジュール関連図

調達したらお金を払いますし、ものが売れればお金をもらいます。人を雇えば、給料が発生します。それらのデータがリアルタイムにFIモジュールに流れてくることになります。

なので、SAPを導入する際にFIモジュールを利用しない企業はほぼないといえるでしょう。

CO(Controling):管理会計

管理会計をつかさどるモジュールです。

FIモジュールが財務諸表などの外部向けの報告書を作成することを目的とするのに対して、COは「内部向けの報告書」を作ることを目的とします。

すなわち部門単位の業績管理や、間接費の管理などを主な目的とします。

FI と COの違い
FI(財務会計)
  • 社外向け(財務諸表の作成がゴール)
CO(管理会計)
  • 社内向け(費用・収益の分析が目的

FIモジュールとCOモジュールの違いについては、以下の記事でより詳しく解説しておりますので、是非合わせてご覧ください。

COモジュールも他のモジュールと同様、リアルタイムに全業務のデータが連携されてきます。

SD(Sales and Distribution):販売管理

いわゆる販売管理システムです。注文を受けてから、商品を出荷するまでを管理するのが主な目的です。

どの会社・人に注文を受けて、何を出荷するのか?その出荷製品はいくらで、請求書はどこにどんなフォーマットで送れば良いのか?などを管理するモジュールです。

もちろんモノを売れば代金を受け取りますが、SAPはERPシステムなので、売り上げのデータがFIモジュールに自動的に流れていきます。

MM( Material Management ): 在庫購買管理

いわゆる「在庫管理システム」「調達管理システム」です。

SDモジュールが「売る側」だとすれば、MMモジュールは「買う側」です。

どこに何を発注したのか?どれぐらいの値段で発注するのか?今在庫はどれぐらいあるのか?などを管理します。

発注金額や、在庫量データは財務諸表に関わってくるのでこれも自動的にFIモジュールに流れていきます。

SAPを導入するには?

さて、ここまでで何となくSAPが何者であるかが分かってきたのではないでしょうか?

SAPはSAP社が製造しているERP製品であり、複数のモジュールから成り立っていることを説明してきました。

そしてこの最後の章では、SAPを導入する際の流れを解説しておきます。

「え、SAPってパッケージなんだからすぐ利用できるんじゃないの?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそれは誤解です。

SAPはインストールするだけでは利用できません。簡潔に言えば「導入する企業に合わせた設定」が必要になってきます。この設定のイメージまで付けばSAPという製品の全体像が見えてきます。

「導入する企業に合わせた設定」 は次の2ステップで行われます。

SAP導入時の必要作業
  • パラメータ設定(コンフィグレーション / カスタマイズ)
  • ABAP開発(アドオン開発)

それぞれの具体的な作業イメージを説明していきます。

パラメータ設定(コンフィグレーション / カスタマイズ)

パラメータ設定とは、別名コンフィグレーション / カスタマイズとも呼ばれます。この作業では、SAPが事前に用意している設定項目を一つずつ設定していくことになります。

パラメータ設定の代表的なものを挙げるだけでも、「会社名」や「所在地」といった基本的なものから「消費税の設定」「伝票の項目」など実際の業務に密に関連してくるものまで幅広く存在します。

SAPのすごいところは「そんなものまで設定できるの?」というほど、設定項目が充実しているところです。この幅広さが、世界中の企業に採用されている大きな理由の1つになっています。逆に言えば、この設定が難解なものになってくるため、SAPコンサルなどの専門職が必要になってきます

この設定を隅々まで知り尽くしているSAPエンジニアによって、SAP導入時の初期パラメータ設定が行われます。

SAPエンジニア

ABAP開発(アドオン開発)

パラメータ設定(SAPの設定)だけではどうしても実現できない機能を追加する作業です。SAP専用のABAPAdvanced Business Application Programming)と呼ばれるプログラミング言語を用いて、独自の機能を追加していきます。

SAP導入時に一番大変な作業がこの工程です。

なぜなら、ABAP開発がなければ「バグ」がほとんど生まれないからです。SAPを導入している企業で、もし不具合やバグが起きているとすればそれは99%はこのABAP開発が原因といえます。

ABAP開発では、SAPの標準仕様に加えてABAPの知識が必要になるため、開発費用がかさみます。

ABAPを1から勉強したい方は!

SAP / ABAPを1から学習したい初心者の方向けに、できるだけ網羅的にABAPが理解できるよう以下ページに知識体系を整理しています。

特に初心者のうちは、どこから学べばよいか?どう勉強すれば良いか?すらわからない状態になりがち。

ある程度の知識を持ったうえで、はじめて実践的な理解へとつながります。

是非、一度ご覧になってみてください。

FAQ:SAPとERPの違い

よくある質問の1つ「SAPとERPは何が違うのか?」というものがあります。たぶん、どちらも英語3文字で似たような概念のため混乱してしまう人が多いものと推測されます。

ただ、ここまでお読みになった方なら答えは簡単にわかりますね。

「SAP⇒SAP社のERPパッケージの製品名称
「ERP⇒企業全体システムのこと
となります。

「SAP」と「ERP」は似ているものの、概念は異なりますので正確に理解しておくことが重要です。

そのうえで、SAPはERPパッケージの製品名称であるので、その意味ではSAP≒ERPである、ということも可能です。あくまでも、SAPは会社名・製品名であり、ERPは全社システムの総称であることを理解しておきましょう。

SAPをもっと詳しく知りたい方は

本記事で、SAPの概要を理解できたところで、さらに一歩深くSAPが何者なのか?を知りたい方や、実際にSAPのプロジェクトに参画する方は、参考書での学習もおすすめします。

以下の記事で紹介している3つの書籍ですが、SAPエンジニアであれば知らない人はいない必読書です。これを知らずしてSAPエンジニアを名乗るのはちょっとだけ恥ずかしいかも?

また、以下のページではSAPの勉強方法を解説していますので、是非ご参考にしてみてください。

開発者の視点からSAP導入のメリット・デメリットについて解説しておりますので、お時間がある方は合わせてお読みください。